THE VOICE

スペシャリストの語りから紐解く、BBSのものづくりの志

クルマづくりのプロフェッショナルは、 BBSに何を求め、ともに何をめざすのか。
モータージャーナリスト/自動車研究家の山本シンヤさんを聞き手に、 富士重工(現SUBARU)時代はスバル車の操縦安定性を鍛え、 STIでのコンプリートカー開発を経て現在はモータースポーツの 陣頭指揮を取る、渋谷真さんにお話をうかがいました。

走りを極めるために、BBSは必然の選択だった。

山本 BBSを履くと走りが変わる。そんなキーワードをリアルに実感する機会をくれたのが、実はスバル車だったんです。3代目インプレッサWRX STI(GRB)のホイールはノーマルとBBSが 選択可能でしたが、メディア向け試乗会で乗りくらべをさせていただいて。走りがいいのは、もう明らかにBBS。その印象をエンジニアに伝えると「ホイール以外は同スペック」だと言うから驚きました。日本の自動車メーカーの中でもSUBARUはいち早くBBSに注目し、純正採用していますね。さまざまなホイールメーカーの商品をテストし、その中で出会ったのがBBSだったとお聞きしました。

渋谷 ホイールは重要保安部品なので、変形やエア漏れしない強度が基本です。それをしっかりとクリアしたうえで、軽量であることが重要な性能となります。また、クルマの操縦安定性と乗り心地はタイヤ、ホイール、サスペンション、車体、空力とさまざまな要素で構成されていますが、私のイメージとしては路面に接している部分から順に関連付けていくことが大事だと思っています。路面と唯一接しているタイヤはここ10 ~20年で著しい進化を遂げていますが、それを支えているのはホイールです。走りを極めるために、吟味する必要がありました。

山本 実際にテストしてみて、どのような印象を持ちましたか?

渋谷 BBSは、タイヤの性能をより引き出している印象です。その結果、我々が求めている『ステアリングを切り始めた時のスムーズな動き』、『連続性のある自然な操舵感』、『コーナーの踏ん張りの良さ』、『路面のいなしやフラット感』などを高い次元で実現していました。STIへ移籍後もその考え方は変わりません。STIコンプリートカー『Sシリーズ』は街中からニュルブルクリンクまで許容するパフォーマンスと上質さが求められますが、それを完成させるうえでBBSはマストアイテムのひとつでした。

山本 実際に乗るとわかるのですが、『Sシリーズ』は絶対性能だけでなく数値にあらわれない官能的な部分の質も高く、スポーツカーでありながらプレミアムカーのような乗り味が得られますね。それもサーキットのように全開走行しなくても、交差点ひとつ曲がるだけで実感できる。まさに「いい物は一転がりでわかる」というか。BBSと他のホイールブランドの違いはどのようにとらえていますか?

渋谷 BBSは剛性と軽さのバランス、それから靱性(=ねばり強さ)を備えていることですね。どんなホイールであっても走行中にわずかに変形しますが、唐突に変形するのとジワーッと変形するのでは、乗り味は大きく変わります。そこには、同じ鍛造であってもアルミ素材や製法の違い、熱処理や力のかけ方、温度管理などBBS独自のノウハウがあるのでしょう。BBSと同じ機械、同じ材料を用いて製造したとしても、同じ性能は出せないはずです。

金属の塊を1/4の高さまで押しつぶし、組織を緻密化する。
成型後、さらに熱処理を加えて金属の靭性を引き出していく。
軽さ、剛性、靭性をハイバランスし、操縦安定性と乗り心地の両立を可能に。

レーシングカーも市販車も、求める性能は変わらない。

山本 BBSでは、レース用ホイールと市販用ホイールは「同じファクトリー、同じ技術、同じ手」で開発され生産されているそうです。ホイールづくりに対する目線の高さ、職人が持つ技術のクオリティの高さに驚かされます。

渋谷 操縦安定性の基礎的な試験のひとつに『サスペンション基礎特性試験』というものがあります。クルマを固定してタイヤの接地面に力をかけ、剛性を測るのですが、BBSのホイールだとスポークが真下とそうでない時で数値の変化がかなり小さいのです。それが運転時のなめらかさ、応答性にすぐれたリニアな動きにつながっていくのでしょう。

山本 クルマに上手に溶け込むバランスの良さの秘密は、そこにあるのかもしれませんね。実際、BBSに履き替えると「これが純正品なのでは?」と錯覚することがありますから。また、デザインに関しては時代によって進化しつつも、不変の美しさがあると感じています。BBSならではのスポーク形状は単なる意匠性ではなく、剛性バランス、弱いところと強いところがないようにという力学的観点から生まれた機能のひとつであり、性能を追究した機能美と言えるのではないかと。一方で、BBSのデメリットは何かありますか?

渋谷 私の経験上、機能的な部分に関して言えば、ありません。強いて言えば、特に昔のモデルはスポークが細かく、洗車時にきれいにするのが大変だったということぐらい(笑)。

山本 現在、STIはSUPER GTとニュルブルクリンク24時間耐久レースにワークス参戦していますが、その足元もBBSが支えています。レーシングカーと市販車で、求める性能に差はあるのでしょうか?

渋谷 求める性能に実は差はなく、それをどう極めていくかだと考えています。レース用ホイールはBBSとタッグを組んで開発していますが、ホイールの改良でタイム向上はもちろん、ドライバーから「コーナリング時の縁石の乗り越えが楽になった」という声も聞いています。衝撃をしなやかにいなす、鍛造の靱性が発揮され ているからこそでしょう。また、SUPER GTでもニュル24時間でも、ホイールが原因のトラブルはゼロ。この信頼は大きいです。

山本 BBSのエンジニアに話を聞くと、「STIさんは要求が具体的で非常に細かい」と言っていました。

渋谷 それは、ホイールで走りが変わることに気づいてしまったからです(笑)。ドライバーの能力を引き出すために、クルマはどうしたらいいのか?ホイールはどうあるべきか?そんなことを常に考えている私にとって、BBSは欠かせないパートナーだと思っています。

STIをはじめ、SUPER GTに参戦する多くのチームがBBSを採用。そのホイールは市販モデル「RI-A」がベースとなっている。
山本 シンヤ (やまもと しんや)
1975年静岡県生まれ。自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立、「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを“わかりやすく上手”に伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗って活動。数々の海外取材で経験した「世界の自動車事情」、元エンジニアの経験を活かした「最先端技術」、編集者時代に培った「ドライビングメカニズム」などを得意とするが、モータースポーツや旧車事情、B級ネタもカバーするなど、ジャンルは「広く深く」。エンジニアの心を開かせ「本音」を引き出させる能力も長けている。
渋谷 真 (しぶや まこと)
1974年富士重工(現SUBARU)入社。操縦安定性や乗り心地などの視点から量産車の開発に携わり、「WRX STI」や「BRZ」なども手がける。2011年にSTIへ籍を移し、商品開発部 車両実験グループ担当部長として「S207」や「BRZ tS」といったコンプリートカーやパーツの開発も担当。2017年よりSUPER GTのプロジェクトゼネラルマネージャー、2018年より総監督を務める。プライベートではラリーやダートトライアルなどのモータースポーツを楽しみ、全日本ダートトライアル選手権でチャンピオンを獲得したドライバーとしての顔も持つ。